周回遅れの日本のゲノム医療

タイトルは中村祐輔先生の口癖ですが、上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)氏も同じことを丁寧に説明しています。

ゲノム研究を推し進める原動力は、個別化医療の推進だ。個別化医療とは、主にがんの診療分野で、がんのゲノム情報に基づき治療法を変更することである。この診断・治療法が普及すれば、多くのがん患者が正確に診断され、適切な治療を受けられるようになる。副作用を減らし、より高い治療効果も期待できる。

全遺伝子解析は、がん以外の難病の治療や診断でも威力を発揮することになる。

たとえば、食事をするたびに腸に小さな穴が開き、その穴が皮膚表面まで通じてそこから便が漏れるという奇病を患っている米国のニコラス・ヴォルカー君という4歳児のケースでは、ヴォルカー君の全エクソーム解析(全遺伝子解析)を行い、腸を細菌の攻撃から守る働きに関係していると考えられている「XIAP遺伝子」の変異であることを突き止めることができた。

そして、全遺伝子解析によって命が救われた最初の症例として新聞でも紹介され、それらの報道に対してピューリッツァー賞が与えられた。

その受賞記事は書籍化され、翻訳されています。

10億分の1を乗りこえた少年と科学者たち――世界初のパーソナルゲノム医療はこうして実現した

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マーク・ジョンソン, キャスリーン・ギャラガー
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はらはらドキドキしながら一気に読みました。お母さんの執拗なほどのがんばりがすばらしい結果をもたらしたのです。もちろん医療者の献身的な努力も。

全遺伝子解析の有意性が明かなのに、日本ではそれに目が向いていない。

シスメックス社が承認申請していた遺伝子変異解析キット「オンコガイドNCCオンコパネルシステム」が承認されたことがニュースになったが、このパネルシーケンスでは、がん遺伝子の約半分を見逃すことがあるという。

さらに世界では、全遺伝子解析のその先、全クリプトーム(全転写産物、RNAのこと)解析の臨床応用まで進んでいるのだ。DNAだけではなくRNAも解析して、がんの治療に使おうというのである。

世界では全遺伝子検査が標準となり、検査費用もどんどん安くなっているのに、なぜ日本はパネルシーケンス一辺倒なんだろう。

国立がん研究センターとシスメックス社の長年の提携関係のしがらみがあるのだろうかと勘繰ってしまう。

個別化医療には情報工学者が必要だが、そのような素養を持った医者はいないし、それを育てる国策もない。IT化でも日本の医療分野は後れをとっている。

個別化医療やプレシジョン・メディシンを押し進めるには、今の統計的エビデンスの方法では限界があるだろう。

なにしろ統計的有意差を得るためには数百人規模の臨床試験を行う必要があるが、遺伝子検査で同じ複数の遺伝子の異常がある患者を数百人も集めるのは不可能である。

個別化医療が進めば、統計的有意差という手法の見直し、つまりは現在のエビデンスの考え方も転換を迫られるに違いない、と思うこのごろです。


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